象の小規模なラジオ#415 2016.03.05
小島ケイタニーラブ『It’s a cry run.』特集
出演:成川勇也、やなはる、ジンボユウキ
ゲスト:小島ケイタニーラブ
今週は3月20日に3年半ぶりのニューアルバム『It’s a cry run.』をリリースする、小島ケイタニーラブさんをゲスト迎えお送りしました。
ケイタニーさんは象ラジには作品スパンと同じく3年半ぶりの出演で、初登場はANIMAがHEADZからEPをリリースした時だったので2009年。そこから何度も出演してくれ、今回が通算5回目の登場となります。番組出演以外にもイベントでライブをしに来てくれたりと象ラジとは縁の深いミュージシャンの一人です。
今回の収録ではケイタニーさんから特別な内容にしたいと嬉しい提案があり、10年前によく弾き語りをしていたという代々木公園でのフィールドレコーディングを敢行。弾き語りで3曲演奏してもらいました。パーソナリティやなはるリクエストの前作『小島敬太』収録の「うるうる星人」(やなはる曰く、この曲の「君の酸素を齧りたい」というフレーズ死ぬほど好きだそうです)と、新作『It’s a cry run.』にも収録されているANIMA時代からのレパートリー「サマーライト」、そしてなんと我々のために書き下ろしてくれた曲「象のエレファント」なんてサプライズも!急な野外録音でしたが、どの演奏も他の音源に匹敵する出来なのではと思っております。
トークの方も1時間に収めるためにカットするのが勿体無いほど喋ってもらったんですが、The Smithsと出会った高校時代のことから、特別にかけさせてもらったケイタニーさんの昔やっていたバンドMAGLOCKの音源「個性の時代」のことまで、新作の帰着点にも通ずる“個性”の話を中心にまとめさせてもらいました。2年に渡り毎月開催してきた自身がホストを務め毎回様々なゲストの話を聞くイベント『ラブナイト』で、強烈な個性に自分を脅かされながら辿り着いたケイタニーさんの現在地が新作には色濃く反映されています。
ソロ前作はフィールドレコーディングの効果もあってケイタニーさんがすぐ隣で歌っているかのような親密さで、僕らが勝手にボンクラソング特集でかけ、ケイタニーさんも“ヒモっぽいですよね”と言っていた「パークロカ」をはじめ私小説的な内容でした。3年半ぶりとなる新作「It’s a cry run.」はというとそこから離れ、様々な主人公の視点で綴られる曲が並び翻訳文学の短編集のような作品になっています。前作が他愛ないシチューションからその言葉とメロディで僕らの人生をセンチメンタルに輝かせるものであるなら、今作の他者の経験から着想を得て作られた曲たちはもっと大きく普遍的な肯定感でもって、前作の親密さとはまた違う形で寄り添ってくれます。
そんな「It’s a cry run.」において、唯一過去音源からの再録となる先述の「サマーライト」。3.11後に特別な意味をもって響くようになったこの曲も、新曲群と同じような僕らの背中を押してくれる曲だからこそ再録されたのではないしょうか。
“現実なんてクソくらえさ 歪んだ体で駆け抜けろ 放射能の雨に打たれて 踊り続ける”
“今より眩しい光が欲しい 枯れゆく僕らを包むようなこの雨のように”
“パーティーが終わって それでも僕らは踊り続ける”
ただ前作『小島敬太』までのケイタニーさんがもう過去のもになったのかというとそうではなくて、日常の些細なモチーフから作られた曲達をサウンドクラウド(https://soundcloud.com/keitaney_morning)になんと毎日アップしてくれてます。野菜だったり深爪のことだったりともう250曲アップされており、このケイタニー歌日記『朝焼けミュージック』と題された曲達は、SWITCHのサイトでの通販や3/11のラブナイト会場でアルバム購入すると付いてくる特典CD-Rに傑作選が収録されるようです。ケイタニーさん曰く生きていれば曲はどんどん出てくるとのこと。番組最後にこれからのことを質問した時にもずっと歌い続けているでしょうと答えてくれましたが、自分から出てくる歌と共に生きているその姿がケイタニーさんにいちばん惹かれるところなんだなと再確認しました。アルバム「It’s a cry run.」は世代も文化圏も関係なくいろんな人に届く名盤だと思いますので、リリースされたらみなさんぜひ手にとってみてください。(なり)